WORD-ROBE file01 「エリック・ロメールと私」

FEATURES 苅田梨都子
WORD-ROBE file01 「エリック・ロメールと私」

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  1. 春の訪れ
  2. 偶然がつながる
  3. 大好きなシーン
 こんにちは。
 4月から隔月でザ・シネマメンバーズのコラムを執筆させていただくことになりました。苅田梨都子(かりたりつこ)と申します。コロナ禍で家に籠る事しかできなかった2020年春。特にザ・シネマメンバーズに沢山お世話になりました。今は配信が終了してしまったエリック・ロメールの『飛行士の妻』、『満月の夜』、『友だちの恋人』など一度堪能した後、部屋の中でBGM代わりに流しておく事も多々ありました。

 普段は自身の名を掲げたritsuko karitaとしてブランド活動をしています。私が提案する服たちは、何気ない日常や鑑賞した映画からも影響を受けています。コレクションは主に半年ごとに製作し、発表。4月からは母校でデザインの講師も務めることになりました。 

 連載自体は大変恐れ多いのですが、いつか何処かの媒体で担当したいと思っていた事の一つで、夢でもありました。自分には新学期という区切りはありませんが、今年は何だかウキウキする春の訪れ。大好きなザ・シネマメンバーズで連載が決まった時、まるでこの事を映画のワンシーンのようにも感じました。

 岐阜県の小さな村に生まれ、幼少期には近くに映画館もレンタルショップもありませんでした。映画鑑賞自体、身近な存在としては程遠く、家族で観に行く娯楽やイベントだと認識しておりました。現在は東京に越してきて早10年。家でも外でも殆ど一人でスクリーンと自分を見つめ、対話することの楽しさを徐々に知り身体や心で覚えました。

 ここでは、ザ・シネマメンバーズより配信される作品を通しながら自身の作る服や出来事、記憶。映画から日常へ派生する物事をつらつらと書き留めたいと思います。コラムタイトルである「WORD-ROBEワードローブ」は、「wardrobe」をもじったものです。言葉(word)と、衣服の収納箪笥(wardrobe)を掛け合わせたもの。箪笥から言葉や記憶、様々なものをファイリングしていく意味を込めて。

 作品単体を知ることよりもエピソードやカルチャー、身近なものなど様々なものと結びつけることで、それぞれの人に寄り添うように、作品が特別なものに感じると思います。また、映画鑑賞があまり得意でない方にもこのコラムを通して少しでも気になっていただけたら幸いです。

 さて本日第一回目は私が尊敬してやまない映画監督、エリック・ロメールについて。今回はロメール作品の中で4月や春に観たい作品と、私自身の思い入れが強い作品について触れていきます。今回は『春のソナタ』、『コレクションする女』、『愛の昼下がり』について。

春の訪れ

「春のソナタ」© Les Films du Losange

 冒頭のドライブシーンで流れるベートーヴェンのバイオリン・ソナタ「春」がまるで爽やかな春の訪れを現しているよう。優雅に始まり、私もお気に入りの一曲だ。映画鑑賞後、しばらく部屋で聴いていた。白いハンカチーフ、風に揺れるブラウス。クリーニングから戻ってきたピカピカな佇まいのジャケット等を連想させる。新しい衣服に袖を通したくなるような軽快なリズム。

 映画ではストーリーに着目する人と絵で楽しむ人が居ると思うが、私は後者である。まず全体を何となく感覚で楽しむ。今回もまずは部屋に着目してしまう。

 エリック・ロメールの映画の中で一等好きなお部屋は『友だちの恋人』に登場している白を基調としたシンプルなお部屋。その白を基調とした部屋にどっしりとしたシルバーラックが映える。『春のソナタ』冒頭に登場する部屋も、どことなく似ていた。白を基調としている箇所は似ているが物が多く、無造作に置かれた鞄や服たちが目立つ。アートが好きな人は気づいているであろう、アンリ・マティスの絵画とポストカードを飾っているところもまた粋だ。

「春のソナタ」© Les Films du Losange

 主人公のナターシャが後半、イエローのラフなパジャマのようなシャツワンピースに着替えてくるシーンがある。それを観て薄手の春夏向けのパジャマを作りたくなった。ストーリー自体は何か起きたようで何も起こらない春のソナタだが、私たちも紆余曲折な日々を過ごす。ラスト、しおれたチューリップの束が入った花瓶を運ぶシーンで終わるのが堪らない。

偶然がつながる

 続いて『コレクションする女』は自身のエピソードと重なり、思い入れが強い作品だ。昨年の5月頃に渋谷Bunkamuraシネマにて鑑賞。ロメールの中々見られない作品だと思い駆け込んだ。もう一度観たいと思っていたところ、配信が決まって嬉しい。ざっくりともう一度見返した。ボーイッシュなショートヘア。小麦色の肌が健康的。ハスキーボイスが印象的な主人公のアイデによる、夏のバカンスと男たちの物語。

「コレクションする女」©Eric Rohmer/LES FILMS DU LOSANGE

 映画を観る前に、前売り特典としてアイデのポストカードをいただいて暫く部屋に飾っていた。ポストカード自体、美術館等で記念によく購入する。購入後はメッセージを綴り贈っても良いし、お部屋に飾る事で絵画のような役割をも持つ。ポストカードは記憶や思い出を、気軽に手に取れる形になったものの一つであると私は思う。

 ポストカードのアイデを日々眺めていたら、目が醒めるような蛍光に近いビビッドなグリーンの服を纏いたくなった。自身のブランドではこの色の服は作っていないが、こちらに近い色の服がクローゼットにありデニムパンツと合わせた。
 そして、鑑賞当日──。映画館に行く手前の交差点。信号が青に変わるのを待っていたら、アイデのような服装を纏った女性が自転車で目の前を通り過ぎて行った。偶然で少しドキドキしてしまう。そんなこともあってか、高揚した気持ちで鑑賞した。

 エリック・ロメールは先ほども触れたインテリアと服装の色遣いが巧みだと毎度作品を見るたびに思う。『コレクションする女』ではビビッドグリーン、黒のワントーンパンツスタイル、メンズの水色シャツ(カフスボタンが4つもあるところが気になる)等、服装や色遣いが印象的だ。更にソファに座った時の色の組み合わせまで緻密に計算してあるかのように素晴らしいバランスだ。
 作品の後半では、アイデたちがソファに座って壺のお話をしているシーンがある。その座っているソファの花柄が2020年、ritsuko karitaのコレクションで作ったアイテムと個人的にリンクしたのだ。鑑賞中、勝手にエリック・ロメールと私の心の交換をして、胸が熱くなった。私は上手く自分の出来事を繋げ妄想して、物語を作り意味を持たせる。然もないと、運命と感じられない。

大好きなシーン

 最後は『愛の昼下がり』である。こちらもBunkamuraシネマで一度鑑賞した。少しSFチックな音楽も相まってロメール作品の中でも別枠で印象に残る作品だった。

「愛の昼下がり」©Eric Rohmer/LES FILMS DU LOSANGE

 『愛の昼下がり』にはブティックシーンが多々。個人的に観ていて気持ちが上がった。寡黙そうで硬派な主人公が服を買いに行くシーンが大好きで堪らない。タートルネックが欲しい、この色は似合わない!と自我が強そうだが、まんまと店員さんの勧めに乗っかり買う予定の無いシャツを購入してしまう。とてもチャーミングだし、私もよくあるなと思いながら。

 欲しい服をイメージして店頭に向かうとなかなか見つからないのは何故だろう。持っていない服が欲しいのに、つい選択する服はクローゼット内にある色やシルエットに近いものが多い。自然と好きなものを選んでしまうというのは分かるが、そこでなかなか踏みとどまれない。

 デザインする時もそう。寒色系の色味を特に好むため、今回は異なるアプローチをしようと思いつつ、結局自分の好みがナチュラルに反映されてしまう。自分をコントロールすることはなかなか難しい。

 また、買い物中は、「会話」を挟むことによって、脳が選ぶ対象物よりも会話に重点を置いてしまい、結果、その場を楽しんでしまって、本気で欲しいものを選ぶ・判断することができなくなっているのではないかと感じる。

 オンラインストアからボタン一つで購入することも当たり前になってきました。
直接どこで誰から、どんな会話をして購入したかという思い出という無料の記憶購入も同時に行っていると思えば、また価値が変わってくるだろう。

 重いアウターを脱ぎ、冬の衣はクリーニングに預け、軽やかな春夏のアイテムを探しにいきたいですね。

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この記事のライター

苅田梨都子
苅田梨都子
1993年岐阜県生まれ。

和裁士である母の影響で幼少期から手芸が趣味となる。

バンタンデザイン研究所ファッションデザイン科在学中から自身のブランド活動を始める。

卒業後、本格的に始動。台東デザイナーズビレッジを経て2020年にブランド名を改める。
現在は自身の名を掲げたritsuko karitaとして活動している。

最近好きな映画監督はエリック・ロメール、濱口竜介、ロベール・ブレッソン、ハル・ハートリー、ギヨーム・ブラック、小津安二郎。

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