憂鬱な楽園で、列車は進む

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憂鬱な楽園で、列車は進む

目次[非表示]

  1. 空気感と視点
  2. オープニング
  3. 予感に抗う

空気感と視点

 “青春映画”とは何でしょうか。登場する人物が中年のオジサンだったとしても、青春映画だと思うこと、ありますよね?ザ・シネマメンバーズで現在ご覧いただける作品の中でも、例えば、「海辺のポーリーヌ」には、ティーンエイジャーの若者が出ていて、ひと夏の物語であるにもかかわらず、青春映画であるようには感じません。一方で、「ラブゴーゴー」や「台北ストーリー」は、社会に出て働いている人々が中心のお話なのに、完全に青春映画の空気を感じます。

 ホウ・シャオシェンの「憂鬱な楽園」も、くたびれたオジサンと、彼が面倒を見ている従兄弟達との物語なのですが、これは、青春映画の空気をまとっているのです。ホウ・シャオシェンは、「童年往事」「非情城市」等々、過去や時代、時間と記憶を描くことの多い映画作家だと思います。ある種のノスタルジアを織り込みながら物語を紡いできた彼が、現代を、現在の視点のみで描いたことは注目に値します。

オープニング

 食堂を営む中年男ガオは、上海に店を開くことを夢見ながらもその資金の当てはなく、博打やヤクザな稼ぎ話に手を出しながら、喧嘩っ早い弟分ピィエンとその恋人マーフォア(この娘もホストクラブで100万元の借金を作っている)とともに、先の見えない毎日を過ごしている。そこに遺産相続の話が持ち上がり、南へとバイクを走らせるがー。というお話。

 冒頭、不穏な4つ打ちのビートが始まり、列車の中の3人のショットへ。そしてトンネルを抜けてBGMが消え、進んでいく列車から、後ろへと流れていく景色を捉えたショットへ。やがて不穏な音楽が再びやって来て、ブラックアウトして題名。この時点ですでにこの映画がそれまでの作品と何か決定的に違うな。という強烈な印象を与えられます。

予感に抗う

 映画は、蒸せ返るような湿度とともに台湾の地方の街を映し出し、"ここではないどこか"を求めてさまよい続けます。「変わりたい。変えたい。」と願いながらも、今この時を過ごすしか術がない。どこかで終わりを予感しながらも、漠然とそれに抗い続けるー。そうした空気感によって、観ている者は、そこに“青春なるもの”を見いだすことになるのでしょう。

 例えばそれは、「イージーライダー」で、フラッシュフォワードという、やがて来る未来を唐突に見せてしまうという手法を使いながら刹那を表現したように、この「憂鬱な楽園」においては、冒頭の、列車は進み景色を後ろへと置き去りにしていく、あの一連のショットにその感覚が集約されているのではないかと思うのです。
 ザ・シネマメンバーズで現在配信中のホウ・シャオシェン作品は、「好男好女」、「黒衣の刺客」、「フラワーズ・オブ・シャンハイ」そしてこの、「憂鬱な楽園」の4作。残念ながらこれらの作品は、10月末で配信終了となります。

 ホウ・シャオシェンのフィルモグラフィーの中でも、「非情城市」は別格かもしれませんが、「フラワーズ・オブ・シャンハイ」、「憂鬱な楽園」は、相当に重要な作品なのではないでしょうか。是非、配信終了する前にチェックしてみてください。



「憂鬱な楽園」© 1996 SHOCHIKU CO., LTD.

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