苅田梨都子 連載:WORD-ROBE file8「日常の延長線上にある物語」 

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苅田梨都子 連載:WORD-ROBE file8「日常の延長線上にある物語」 

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  1. “友だちの友だちは友だち”
  2. 自分なりの視点・鑑賞方法
  3. 理想的なインテリアと巧みな色遣い
 初夏を仄かに感じる日差しや温度から、半袖で過ごせる日も多くなってきた6月。しとしと雨の日も多く、梅雨の時期は不安定な天候に装いや心情など色々と左右される。「梅雨は苦手」という言葉を沢山耳にするけれど、私はあまりそうは思わない。このしっとりとした空気は、秋や冬のような寂しさとはまた異なる6月特有の哀愁が漂っている。それは、白く濁った霧のような美しさも時折感じさせる。辺りを見渡すと青や紫の色鮮やかな紫陽花の花びらに雨粒が輝き、街中で見かける度に私はエリック・ロメールを彷彿とさせる。

 初回の連載、WORD-ROBE file 01「エリック・ロメールと私」でもロメール愛を語ったが、今回はまた違った視点で私が好きなエリック・ロメール作品についてお話したいと思う。作品単体に深く批評や言及するというよりは、彼の作品全体をどのように捉えているのか。私にとって何故心地が良いのかなど、自身のエピソードを交えながら触れていくことにする。

“友だちの友だちは友だち”

 エリック・ロメールの貴重な作品を除き、視聴環境が整っていてフラットに再生できる作品の中で私が意識的に複数回観ているのは『友だちの恋人』である。 「喜劇と格言劇」シリーズの第6作。“友だちの友だちは友だち”というキャプションを掲げて始まる。

「友だちの恋人」
©1986 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

 パリ郊外のニュータウンを舞台に、男女4人が繰り広げる恋愛模様を軽快なタッチで描く。市役所で働くショートヘアの内気な女性ブランシュと現実主義の女子学生レアは、食堂で共にご飯を食べた後、意気投合し友だちになる。
黒髪が似合うレアは恋人ファビアンと共に暮らしているが、2人の関係は上手くいっていない。一方、ブランシュはファビアンの友人であるアレクサンドルに恋心を抱くが、恋に臆病な彼女は自分の気持ちを言い出せない。会話劇が織りなす先には・・・?

 私は「喜劇と格言劇」シリーズが大好き。観るたびに立ち止まる格言の一言から繰り広げられる物語。今回の“友だちの友だちは友だち”というワードから、最近の出来事に触れていくとする。
 私は主に高校生・専門学生の時期に特にしっくりくる友人が偶然の出逢いではできなかった記憶。仲良くしてくれる友人も居たけれど、自分が思っている“仲良し”の本質的な意味合いではなかなか難しいと感じていた。10年ほど前、当時主流だったmixiやブログを活用してインターネットで知り合った人たちと交流していた。自分の心地良い場所を追い求めて。個人的に段々その行動が当たり前になっていき、特に違和感もないまま人と交流していった。田舎から東京に上京しても特に友人関係ではあまり悩まずに済んだ。

 ところが今年の6月に入り、偶然イベント会場で共に居合わせた人たちとナチュラルに交友関係を深められていることが度々続いている。しかも心地よいと感じる友人関係。それはまさに“友だちの友だちは友だち”のように、友人が繋げてくれた集まりから同じような感覚を持った人と友だちになれたのだ。
 大半の人はリアルな場を通して人間関係を構築していくと思うが、長年インターネットを介して友だち作りをしていた私にとっては異例なことである。また、大人になるにつれて“友だち”とはどこからどこまでのことを指すのだろう?と感じることも少なくは無い。偶然に心地の良い新たな友だちを作るというのは非常に難しいことなのだ。

 丁度先日、臨床心理学者・心理療法家の河合隼雄さんによる書籍『大人の友情』を読了した。「付き合いについて、惹き合う力、茶呑み友だち、贈りものの多義性」など様々な視点で友情について綴られている。こちらも相まって最近は友情や人間関係について興味深くなっている。

 大人になり、学生の時よりも拘束された環境ではなくなった。より好きなものを追求することで出逢う人や、選択の幅が広くなり自由に行動できる大人は、このように友人を介して心地よい友人関係を作ることが可能だと思う。友だちと呼んでいいのか分からない特殊な関係性もあると思うが、心が通じていれば友だち以上だ、と思う。

自分なりの視点・鑑賞方法

 エリック・ロメール作品は私の中では特別だ。普段の映画とは異なる方法で観ることが殆ど。一つは画としての美しさや色遣い、室内や構図など写真集を眺めるように視覚的・感覚的情報に重点を置いて鑑賞する方法だ。

 共通して言えるように幼少期から今も変わらないのが、漫画の読み方である。漫画は一通り把握するためにパラパラと軽くイラストを眺め、2回目で漸く文字を読み進めるという特殊な読み方をする。私は情報量が多いとこんがらがってしまい、パンクしてしまう。映画館では料金を支払って鑑賞することや、上映の回数に決まりがあること等の制約があることでなかなかそのような手段を取ることが難しい。

 ザ・シネマメンバーズのようにサブスクリプションで作品を鑑賞する場合は、何度も繰り返し自分なりの方法で鑑賞することが可能である。よって、エリック・ロメールの映画は殆ど2回以上鑑賞しており、『友だちの恋人』に関しては5回以上鑑賞している記憶だ。しかし、真面目に鑑賞したのは2回ほどで、時には仕事の作業BGMのように流しておくようなポジションにも入るのだ。

 例えば洗濯物を畳む作業がつまらないと感じている時。ラジオを聴くように、映画を再生したまま耳でフランス語を聴く。時折視界に入る色遣いや室内のインテリア、画角など断片的に心地よいものを摂取しながらその時間を過ごすのだ。しかしこの場合、フランス語は私にはわからないため日本語訳である字幕を目で追っていないとストーリーは不明瞭である。それでもフランス語はぱふぱふとした心地よい喋り方で、個人的にはとても落ち着き、大変集中できるのだ。

「友だちの恋人」
©1986 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

 二つ目はストーリーに意識を寄せて鑑賞する方法。こちらは画としての機能は背景的な感覚である。もちろん方法をわける必要はなく、どちらも同じバランスで鑑賞できる人が最善だと思う。私は映像が美しすぎた場合や感性に刺さる演出の場合、動悸が止まらず思考が偏ってしまうのだ。
 特に映画館で良作を初めて観た時は、舞い上がってしまい仕事である服のデザインがわんさか頭の中に溢れて止まらない。映画に集中しようと思いつつも、明確な台詞やストーリーがごっそり抜けてしまうことも多々ある。エリック・ロメールの映画は特に事件が起こるようなハラハラしたストーリーではないが、揺れの少ない当たり前のような「日常」自体に大変魅力が詰まっており、私の心が大きく揺れる要素の一つである。

理想的なインテリアと巧みな色遣い

 『友だちの恋人』に最も惹かれている点は、主人公であるブランシュの住む部屋のインテリアだ。床や壁、ソファやテーブルまでもがクリーンな白色に統一されている。窓が大きく、開放感がある。部屋の角にはシルバーのラックがあり、本棚になっている。初めてこの映画を観た時に、なんとも理想的な室内の一つとして心撃たれたことを鮮明に覚えている。この室内の温度感が好きで、一時期 iPhoneの待ち受け画面にも設定していた。

 アルテックのようなテーブルに、グラスに注がれたオレンジジュースが映える。ブランシュの服装は黄色のキャミソールに淡いデニムの組み合わせ。爽やかなバカンスを過ごせそうな装いだ。オレンジジュースとの組み合わせもまた絶妙なバランスを保ち、服装以外にも小物等の細部まで行き渡った設定。例えフィクションでも、拘りを持った生活スタイルの節々に感動を覚える。

「友だちの恋人」
©1986 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

 「ブランシュ」はフランス語で「白」を意味するそうだ。彼女の室内のクリーンな部屋にうっとりしており、名前の意味と一致することで何かメッセージが隠れていたなとさえ思える。そして恋愛的な意味で積極的になれない無垢な姿は白という意味と重なる?後半、彼女は真っ赤なトップスに身を包む。気持ちが情熱的になりつつある彼女を上手く表現しているようにも見えた。

 色合わせのテクニックは、ロメール作品全体に言えることであるが、特に本作では度々登場する。メインの男女4人の服装も青・緑が一番のキーとなり、ラストのエンディングまで上手く色遊びが活用されている。

「友だちの恋人」
©1986 LES FILMS DU LOSANGE-LA C.E.R.

 この映画の見どころは、ラストシーン。時々シュールなお笑い要素を設けてくるユニークさも大好き。4人が緑と青の衣装に包まれていて、コントかなと疑うレベル。最後は抱擁したまま停止し、エンドロールが流れる。この停止したままエンドロールが流れていく様は映画館の大きなスクリーンで観たらより最高なんだろうなという妄想を掻き立てる。ロマンチックなだけでなく、ロメールの描く恋愛模様が爽やかであり最高だ。

 私の日常を美化するとしたら、「あ、ロメールの映画のようだ」と日々思う。日本のアニメである「ちびまる子ちゃん」「サザエさん」「あたしンち」のように日常の延長線上にある物語としてエリック・ロメールの映画も入るのではないだろうか。

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この記事のライター

苅田梨都子
苅田梨都子
1993年岐阜県生まれ。

和裁士である母の影響で幼少期から手芸が趣味となる。

バンタンデザイン研究所ファッションデザイン科在学中から自身のブランド活動を始める。

卒業後、本格的に始動。台東デザイナーズビレッジを経て2020年にブランド名を改める。
現在は自身の名を掲げたritsuko karitaとして活動している。

最近好きな映画監督はエリック・ロメール、濱口竜介、ロベール・ブレッソン、ハル・ハートリー、ギヨーム・ブラック、小津安二郎。

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