ジム・ジャームッシュからつながるカルチャー・ツリー

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ジム・ジャームッシュからつながるカルチャー・ツリー
 2020年に長編映画デビューから40年を迎え、近年でも『デッド・ドント・ダイ』や『パターソン』などで相変わらず注目を集めているジム・ジャームッシュ。ザ・シネマメンバーズでは、ジム・ジャームッシュのフィルモグラフィの中から、エッセンシャルな5作品を配信開始する。

 ジャームッシュの映画のポスターを部屋に飾っていた人は多いのではないだろうか。彼の作品がきっかけで知ったり興味を持ったりした音楽やアーティストなども多いはず。80~90年代であれば、雑誌やフリーペーパーなどで紹介されてきたであろうこうしたヒト・モノ・コトにまつわるエトセトラは、現在では新しさに欠けた、今更紹介しない情報という扱いになっているのかもしれない。

 そうすると新たに作品と接触する人達が、そこから伸びる楽しい枝葉の数々を知る機会が少なくなっているのではないか。そこであえてこの特集のイントロダクションとしては、ジャームッシュ作品という樹から広がる様々な枝葉を羅列してみることにした。意図的に取り上げていない要素もあるのでそこはご容赦のほど。

 ※必須項目となるニコラス・レイとヴィム・ヴェンダースについては、こちらの鼎談記事をどうぞ。

スクリーミング・ジェイ・ホーキンス
 オハイオ州クリーブランド生まれの呪術系ブルースマン。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で印象的に使われる「I put a spell on you」は、彼のヒット曲。ドクロの杖を持ち、鼻に骨のピアスをつけ、奇怪な姿でシャウトし、“呪いをかけてやる、お前はおれのもの”と歌うこの曲が当時のラジオやテレビで紹介された時、多くの視聴者が恐怖に震えたという。スクリーミング・ジェイ・ホーキンス自身は、『ミステリー・トレイン』で、ホテルのフロント係として登場する。

ミステリー・トレイン

オハイオ州
 ジャームッシュが生まれたのがオハイオ州カヤホガフォールズ。この街は、クリーブランドとアクロンという都市の間に位置しており、クリーブランドはジャームッシュの作品によく出てくる。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で、ウィリーのおばさんが住んでいる街がクリーブランドだし、『デッドマン』のウィリアム(ビル)・ブレイクもクリーブランド出身の会計士だ。ちなみにリズムアンドブルースをロックンロールと呼んで紹介したのがクリーブランドのラジオDJアラン・フリードで、スクリーミング・ジェイ・ホーキンスに呪術的なパフォーマンスをさせたのも彼。また、トム・ウェイツが『ダウン・バイ・ロー』でラジオ局の名前をつぶやくシーンがあるが、WHLA、WAKRは、どちらもアクロンにあるラジオ局。
ジョン・ルーリー
 独特なクールネスを漂わせるミュージシャン・俳優。フェイク・ジャズと自ら呼ぶバンド、ラウンジ・リザーズをギタリストのアート・リンゼイと結成。このラウンジ・リザーズは、様々なつながりを後に生み出していくことになる。またバスキアと絵を描いていたこともあり、難病のライム病を患って楽器を置いてからは画家としての活動をメインにしている。近年、日本でもワタリウム美術館で個展が開催された。

ストレンジャー・ザン・パラダイス

リチャード・エドソン
 『ストレンジャー・ザン・パラダイス』でエディ役を演じた俳優であり、元ソニック・ユースのドラマー。だが、1年で脱退したため、彼のドラムが聴けるのは、1982年リリースのデビューEP『SONIC YOUTH』のみ。同時期にKONKというバンドでもドラムを叩いている。KONKは、80年代ニューヨークのNO WAVEシーンの重要バンドであり、伝説のディスコ、パラダイスガラージやギャラリーなどでもその曲はプレイされた。

ストレンジャー・ザン・パラダイス

NO WAVE
 70年代後半からのニューヨークにおけるポスト・パンク、アート・パンクのムーブメント。前出のアート・リンゼイのバンド、DNAや、ラウンジ・リザーズ、ソニック・ユース、KONKほか、パンクの影響を受けながらもノイズ、アフロ、ファンク、ジャズといった多様な音楽性を含んだニューヨークアンダーグラウンドシーンのパフォーマンス性の強いオルタナティブな表現を広く指している。
TVディナー
『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で、ウィリーを演じるジョン・ルーリーが食べているのが印象に残った人も多いだろう。アルミのトレーに肉とポテトと野菜とデザート。テレビを見ながら冷凍庫から出してオーブンで温め、食べたら皿洗いも必要ない、いかにも「アメリカ」なオールインワンのプレート食。実際、アメリカ文化の一部としてスミソニアン博物館にも陳列されている。電子レンジの普及とともに容器はアルミからプラスティックへ。

ストレンジャー・ザン・パラダイス

『THE AMERICANS』
 1959年に刊行されたロバート・フランクによる現代写真のバイブル的写真集。その序文は、ビートジェネレーションを代表する作家ジャック・ケルアックが書いている。スイスからニューヨークに移住してきたロバート・フランクが、ライカを手にし、中古のフォードに乗って全米中を旅しながら切り取った「アメリカなるもの」。ガソリンスタンドやダイナー、ジュークボックス、駐車場、人々…。ジャームッシュは、ロバート・フランクと友人関係で、彼をリスペクトしており、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』や『ダウン・バイ・ロー』には、まさに『THE AMERICANS』にも同じような写真があったのではと思うようなカットが数多くある。この写真集は1985年、1986年、1993年と再発されており、日本のミニシアター、サブカルチャー、コンパクトカメラブームにも強くリンクしている。そして、2008年にも再発されているのだが、このシュタイデル版がロバート・フランク自身が紙の選択から制作に関わっている言わば決定版で、2021年の現在も定価で容易に手に入れることができる。

THE AMERICANS  Steidl; Reissue edition (May 1, 2008)
ISBN-10 : 386521584X ISBN-13 : 978-3865215840

『メイン・ストリートのならず者』
 言わずと知れたローリング・ストーンズの大名盤だが、ロバート・フランクは、ストーンズのツアーに帯同して8ミリカメラを回し、『コックサッカー・ブルース』という作品にした。これはアンダーグラウンドでしか上映も流通もされていない作品だが、『メイン・ストリートのならず者』のアルバムジャケットとライナーノーツにそのフィルムの一部が使用されており、内容を垣間見ることができる。(『THE AMERICANS』の一部も使用されている。)ちなみに、ロバート・フランクの映画『キャンディ・マウンテン』には、ジャームッシュが出演している。
ロビー・ミューラー
 ヴィム・ヴェンダースの多くの作品を手掛けた撮影監督。今回お届けするジム・ジャームッシュ作品の内、『ダウン・バイ・ロー』、『ミステリー・トレイン』、『デッドマン』の3作は彼の撮影によるもの。白黒でもカラーでも彼の風景の切り取り方、空の写し方、色調の取り方、光の入れ方は、うっとり見とれてしまうほどメロウな美しさがある。(但し、ヴェンダースでも『ベルリン・天使の詩』はロビー・ミューラーではないので念のため。アンリ・アルカンという名手です。美しい映像ですが傾向が違いますよね。)

ミステリー・トレイン

トム・ウェイツ
 アメリカの“酔いどれ詩人”の異名を持つシンガーソングライター。物語や情景が思い浮かぶような作風で、アルバムは必聴盤ばかり。『ダウン・バイ・ロー』でDJザックを演じる。ラジオ局を転々とし、うだつの上がらない状況を恋人に叱咤されるが、洒落た靴は大事にする。中折れ帽をかぶり、チェックのパンツにピカピカの靴。しわがれた声で歌いながらウィスキーをあおる姿は、まさにトム・ウェイツ自身。劇中、リー・ベイビー・シムズという名前でDJをしていたというラジオ局WYLDは、ニューオーリンズに実在するR&B、ソウルに特化したラジオ局。また、彼が劇中で“WWOZ 、WHLO、WAKR…。何でも来いだ。” と呟くのも、アメリカのラジオ局の名称。特にWWOZは、ニューオーリンズのラジオ局で、ジャズフェスティバルなどのアーカイブも現在はインターネット上で公開しており、日本でも聴けるので要チェック。そして、トム・ウェイツは、『ミステリー・トレイン』でもラジオDJとして声だけで出演している。『ダウン・バイ・ロー』の冒頭を飾る曲、「Jockey full of bourbon」は、彼のアルバム『RAIN DOGS』に収録されている。このアルバムには、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズも参加している。

ダウン・バイ・ロー

マーク・リボー
 「Jockey full of bourbon」で印象的なギターを弾いているのがマーク・リボー。アート・リンゼイの後を継いでラウンジ・リザーズのギターを務め、矢野顕子ともコラボレーションする、ニューヨークが世界に誇る一匹狼の職人ギタリスト。特にMarc Ribot Y Los Cubanos Postizos(マーク・リボーと偽キューバ人たち)名義のアルバム2枚は大名盤。
メデスキ・マーティン・アンド・ウッド
 “マーク・リボーと偽キューバ人たち”の一員で鍵盤奏者だったのがジョン・メデスキ。ドラマーのビリー・マーティンは、ラウンジ・リザーズにも参加。マーク・リボーは、メデスキ・マーティン・アンド・ウッドのアルバム『The Dropper』、『End Of The World Party (Just In Case)』に参加している。彼らの真骨頂は変幻自在のインプロヴィゼーションを見せるライブだが、スタジオワークも素晴らしい。ニューオーリンズやブラジルなど多様な音楽性を消化した、ひと味違ったジャズファンクを求めているかたは是非。
アーマ・トーマス
 ニューオーリンズを代表するソウルシンガー。「Time is on my side」をローリング・ストーンズがカバーしたことでも有名。『ダウン・バイ・ロー』で、脱獄後に食堂で出会ったイタリア人女性ニコレッタとロベルトが恋に落ち、ダンスをするシーンのBGMは彼女が歌う「It‘s Rainning」。この曲は同じくニューオーリンズのアーティスト、アラン・トゥーサンの作曲。アラン・トゥーサンは、Tokyo No.1 Soulsetの「夜明け前」にも楽曲がサンプリングされている名ピアニストであり偉大なるシンガーソングライター。

ダウン・バイ・ロー

パスカル・オジェ
 ザ・シネマメンバーズでもお届けしていたエリック・ロメールの『満月の夜』で主役を務め、その公開直後にこの世を去ってしまった女優。亡くなったのは1984年10月のことだった。ジャームッシュの『ダウン・バイ・ロー』は、彼女に捧げられている。1984年のイタリアのベルガモ・フィルム・ミーティングという映画祭での二人のツーショット写真をWEB上で見ることができるが、関係性は定かでないものの、“スタイル”が通じ合っている二人という感じだ。
エルビス・プレスリー
 『ミステリー・トレイン』の重要なキー。このタイトルはエルビスの曲からきており、映画冒頭に流れるのもこの曲。また、劇中で銃声と並んで時間軸として効果的に使われる曲「Blue Moon」は、彼のファーストアルバムに収録されている。このファーストアルバムのジャケットは、ザ・クラッシュの『LONDON CALLING』のジャケットデザインに引用されている。そしてザ・クラッシュのリーダー、ジョー・ストラマーがこの『ミステリー・トレイン』に出演しているのも、もちろん偶然ではない。

ミステリー・トレイン

カール・パーキンス
 『ミステリー・トレイン』でメンフィスにやってきた日本人カップル(永瀬正敏、工藤夕貴)のスーツケースに、「カール・パーキンス is the best」と殴り書きしてある。エルビスが歌っている印象が強い「Blue Suede Shoes 」だが、作ったのも最初にヒットさせたのものこの人。エルビスがロカビリーとロックンロールのキングだったのに対し、カール・パーキンスはまさにロカビリーの神様。初期のビートルズも彼に影響を受けている。
サン・スタジオ
 『ミステリー・トレイン』で日本人カップル(永瀬正敏、工藤夕貴)が訪れるのが、このメンフィスの伝説的なレコーディングスタジオであり、レコードレーベル。エルビスもカール・パーキンスもここからキャリアをスタートさせた。レーベルのサン・レコード最初のヒット曲が、ルーファス・トーマスの「Bearcat」だったが、この曲は、ビック・ママ・ソーントンの「Hound Dog」に酷似していることから訴訟沙汰になり、レーベルは破産しかける。このルーファス・トーマスは、その後メンフィス・ソウルの巨人となったわけだが、ジャームッシュは彼を『ミステリー・トレイン』において、メンフィス駅でジュン(永瀬正敏)からライターの火をかりる老人として登場させている。
ウィノナ・ライダー
 『シザーハンズ』や『リアリティ・バイツ』などの名作に出演し、『ナイト・オン・ザ・プラネット』にも登場する彼女のことを『ストレンジャー・シングス』のジョイス・バイヤーズ役と紹介した方がわかりやすいというのが今の時代か。彼女の“Godfather”=名付け親は、元ハーバード大学教授でLSD研究の第一人者ティモシー・リアリー。両親は、ビートニク詩人のアレン・ギンズバーグや「知覚の扉」のオルダス・ハクスリー夫妻と親交があった。ウィノナの父親はティモシー・リアリーのサイケデリック関連の研究でのアーカイブ担当でもあった。

ナイト・オン・ザ・プラネット

オルダス・ハクスリー
 文芸作家であり、哲学者。メスカリンを摂取した体験の手記である「知覚の扉」(1954年刊行)は、ティモシー・リアリーを筆頭に60年代の意識革命に大きな影響を与えた。メスカリンはネイティブアメリカンの儀式で使われるペヨーテ(ウバタマサボテン属の植物)に含まれる成分であり、『デッドマン』の劇中でノーボディが食べるシーンがある。(その時、字幕では出ないが原語では“ぺヨーテ”と言っている)また、「知覚の扉」というタイトルは、ウィリアム・ブレイクの詩からの引用であり、その文体にも影響を受けている。ドアーズのバンド名もここに由来する。他にもハクスリーの小説『ガザに盲いて(Eyeless in Gaza)』は、英国のバンド、アイレス・イン・ギャザがバンド名として引用。そして彼らの曲は、フリッパーズ・ギターの「ドルフィン・ソング」でサンプリングされている。この曲が収録されているアルバム『ヘッド博士の世界塔』は、2021年の今年、発売から30周年を迎える。
ウィリアム・ブレイク
 『デッドマン』の全編にわたりオマージュが捧げられている英国の詩人・画家。アレン・ギンズバーグやウィリアム・バロウズも彼の詩に影響を受けている。彼らのようなビートニクの作品や、ハクスリーの「知覚の扉」をきっかけにしてウィリアム・ブレイクの詩へとたどり着く人も多いのではないか。『デッドマン』劇中で引用されているブレイクの詩は主なところでは、「無垢の予兆(Auguries of Innocence)」、「天国と地獄の結婚(Marriage of Heaven and Hell)」、「永遠のゴスペル(The Everlasting Gospel)」など。

 しかし、『デッドマン』におけるウィリアム・ブレイクは、単なる引用というよりは、ジャームッシュがブレイクの詩のエッセンスを吸収し、オリジナルな作品へと落とし込み直していると言ったほうがよいだろう。英国の詩人であるブレイクの詩や思想の中にあるヴィジョンをアメリカ西部という土地、ネイティブアメリカンの信仰や死生観などと重ね合わせ、または融合させ、独自の物語へと昇華させている。自然と人と動物とが、その土地において精神的なつながりをもちながら棲息するというアメリカ西部の行動原理のようなものがブレイクの詩と共鳴している。

デッドマン

アンセル・アダムズ
 アメリカ西部の風景を被写体とした作品を多く残した写真家。ヨセミテ渓谷、シェラネバダ山脈、ニューメキシコ北部などを、画面全体にピントが合った、極めてシャープな白黒写真の完璧なプリントによって表現した。それは西部劇が創り出したイメージとは全く異なる、静謐さと荒々しさとを兼ね備えた、崇高な、手付かずの「アメリカなるもの」だった。イノセンスやヴァージニティといった言葉では表現しきれない神秘と怖れをたたえたアメリカ西部がそこにある。
ジョージア・オキーフ
 アメリカ西部、特にニューメキシコの荒野を、骨や植物をモチーフに抽象性と象徴性に富んだ画風で描いた孤高の画家。老いてからも荒野に住み、ガラガラヘビを殺し、山に登り、絵を描き続けた。その土地と交信するかのようにして創られた作品は、ネイティブアメリカンにも通ずる内面的、精神的な力をたたえている。
サム・シェパード
 フロンティアスピリットというロマンティックな感覚とは別種の、アメリカ西部の男を体現しているようなイメージを持つ劇作家であり俳優。自身のルーツであるアメリカ西部と向き合い、その原風景を戯曲などの作品へと織り込んだ。ヴィム・ヴェンダースの「パリ・テキサス」は、サム・シェパードの脚本(ヴェンダースとの共同執筆)だが、彼の自伝的エッセイ「モーテル・クロニクルズ」がヴェンダースに映画の着想のきっかけを与えた。そして、忘れたころに観る「パリ・テキサス」には、ジャームッシュ映画の常連ジョン・ルーリーが出演しており、不意打ちを食らう。
エッセンシャル:ジム・ジャームッシュ、是非、お楽しみください。
観るにはこちらから>>


「ストレンジャー・ザン・パラダイス」
©1984 Cinesthesia Productions Inc.

「ダウン・バイ・ロー」 
©1986 BLACK SNAKE Inc.

「ミステリー・トレイン」
© Mystery Train, INC. 1989

「ナイト・オン・ザ・プラネット」
© 1991 Locus Solus Inc.

「デッドマン」
© 1995 Twelve Gauge Productions Inc.

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